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心房細動治療について ~クライオバルーンによる冷凍アブレーションの導入~

循環器内科 医長 中川和也

 

当院では平成28年4月に、心房細動に対する新たな治療法として大きな期待がもたれる、Medtronic社製‘冷凍アブレーションシステム’を導入しました。
現在のところ、発作性心房細動に対してのみの適応となっていますが、治療時間の大幅な短縮により、患者様の負担を軽減できるようになりました。これから治療の概要についてご説明いたします。

 

心臓には4つの部屋があり、上2つが心房(右心房と左心房)、下2つが心室(右心室と左心室)と呼びます。
通常心房、心室が交互に収縮、拡張することで、全身に血液を送り出す大循環と体内に酸素を取り入れるための肺循環の2つの循環を制御するポンプとしての機能を果たしています。
さらにこのポンプが規則正しく且つ効率よく働くことができるように刺激伝導系( 心臓に指令を出す発電所とそれを伝える電線のネットワーク) が備わっています。

 

心房細動とは心房が小刻みに震えてしまう不整脈で、心房細動になることでポンプ効率がおよそ20%低下するため、時に血液循環に支障をきたし息切れやむくみなどの心不全を引き起こします。
また心房、特に左心房の中に血液が澱むことにより血栓という血液の塊が形成され、それが脳動脈に流れて行くことで、脳梗塞を引き起こす可能性のある看過できない不整脈です。
現在日本では約90万人以上存在するともいわれており、高齢化とともに今後益々増加するものと推測されています。

 

心房細動には不整脈が発作的に出現しても7日以内に自然停止する発作性心房細動と7日以上持続する持続性心房細動、さらには年単位で持続している永続性心房細動に分類されますが、未治療にしていると発作性から持続性、永続性へと移行していくことが多く、発作性のうちに治療することが重要です。
発作性心房細動の発生メカニズムは肺と左心房をつなぐ4本の肺静脈での異常な電気信号をきっかけとして、心房全体に無秩序で不規則な電気興奮が広がることで生じるとされています。

 

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心臓の構造と刺激伝導系 心房細動のもとになる電気信号

これまでは、足の付け根の血管からカテーテル(細い管)を入れ、4本の肺静脈の周囲を高周波電流によって熱で焼灼する高周波カテーテルアブレーションという治療法が普及しており、当院においても現在年間約60例に対して治療を行っています。
しかしながらこの治療法は点をつなぐように焼灼するために比較的高度の技術を要し、合併症も数%あり手術時間も3~4時間かかっていました。

 

今回当院で新たに導入した「冷凍アブレーション」はカテーテルの先端に直径28mmの風船がついた「バルーンカテーテル」を4本の肺静脈に押し当ててマイナス60度程度の冷却ガスで風船を冷却することで組織を冷凍壊死させることにより肺静脈から生じた異常信号が心房に伝わらないようにする治療法であり、従来の高周波カテーテルアブレーションに比べ手術時間は半分程度に短縮でき、合併症も少なく、さらに成功率も高いといわれています。
当院では平成28年4月から25例の患者様に施術し従来法の約半分の手技時間ですべて成功し、全員が数日で問題なく退院されました。

 

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クライオバルーンを拡張し、肺静脈に
圧着している様子
肺静脈を閉塞していることを確認の上
-60℃程度の冷却ガスで一気に冷却する

今のところこの治療法は「発作性」心房細動にのみ適応され、持続性や慢性心房細動には適応がありません。
またバルーンカテーテルのサイズが1サイズしかないため、治療前に心臓CT 検査を行い、肺静脈の形態を評価した上で適応の有無について判断する必要があります。さらには、冷凍アブレーションの際にバルーンカテーテルが肺静脈にうまく圧着しているかを確認するために造影剤を使用することから、従来法に比べて造影剤の使用量が増える傾向にあります。
従いまして、冷凍アブレーションの適応とならないようなケースは従来法での治療を選択しております。

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当院での実際の治療の様子

高齢化社会を迎え今後急増することが予想される心房細動が原因の脳梗塞の発症を予防するために「発作性」の時期に心房細動を治療することが重要であり、その意味でこの治療法の有用性は極めて高く、患者様の病状改善に大きく貢献できる治療法であると考えております。

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