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山梨県薬剤師会誌 №10 2016.03 秋山真二

 

外来患者のインスリン再指導における情報共有

 

公益財団法人 山梨厚生会 塩山市民病院 薬局 秋山真二

 

糖尿病とはインスリンの作用不足に基づく慢性高血糖状態を主徴とする代謝疾患群のことである。厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査結果」によると、糖尿病の有病者数は約950万人、予備軍を含めると約2050万人と推計されている。実際、臨床の現場においても糖尿病の治療を行っている患者と関わる機会は多い。糖尿病治療において患者自身が糖尿病に主体的に取り組み、セルフケア行動を行えることはとても重要であり、医療者はセルフケア行動を継続して行えるようサポートしていく必要がある。

インスリン療法は製剤(デバイス)の飛躍的な進歩によって、より簡便になってきているものの、適正な手技を行うことができないと治療効果の低下や低血糖などの副作用を起こしてしまう危険性がある。

当院は、162床(急性期・回復期リハビリ・療養型)、16の外来診療科目を設置し、東山梨地域における医療の中核を担っている。また、外来処方箋の94%を院内薬局で調剤しているという特徴がある。この院内処方中心である環境を利用して、院内薬局において薬剤師がインスリンやSMBGなどの手技の説明を行っている。

現状では外来でインスリンを処方されている患者の多くが、長期にわたり自己注射を行っている。当院において、インスリン導入時に手技の説明は行っていたものの定期的な手技の確認は十分にされていなかった。特に長期にわたり自己注射を行っている患者は、手技が自己流となり不適切な方法で注射しているのではないかということが懸念される。実際、朝倉ら¹⁾は注射歴3年以上の患者では、61.5%になんらかの手技上の問題があると報告している。

最近では糖尿病治療において各専門職種が密接な連携を保ち、専門性を生かしたチームアプローチが必要であるとされている。当院においても更なる連携が必要であると考え、医療連携を重視した外来患者のインスリン再指導を薬剤師主導で行うこととした。

 

【インスリン再指導の流れ】

医師・薬剤師・看護師が指導が必要と思われる患者を選別し、対象となった患者のインスリン再指導チェックシート(以下チェックシートチェックシート 表1)を作成する。チェックシートはカルテに挟んでおくことで、医師・看護師とインスリンの再指導の指導内容を、共有するためのツールとして使われている。薬剤師はチェックシートのチェック項目図1に従い再指導を行っていく。お薬相談室(別室)にて現在使用中のインスリン(製剤見本)と皮膚パッドを用いてインスリンの手技を確認し、口頭で質問を行い理解している内容を確認し評価している。評価は〇(よくできる)・△(少しアドバイスするとできる)・×(できない)の3段階で行っており、メモ欄に特記すべき指導内容を記入している。薬剤師による手技確認後、チェックシートを外来カルテに挟み次回の診察時に医師が指導内容を確認するシステムとなっている。手技や理解が不良であれば最大3回まで継続して再指導を行っている。また、再指導の時間は患者の負担軽減のため外来調剤の待ち時間を利用している。

 

今回のインスリン再指導の指導記録をもとに指導内容とその評価について調査し、2015年8月につくばで開催された日本病院薬剤会関東ブロック学術大会にてポスター発表した内容を報告する。

当院を外来受診し治療を行っている糖尿病患者29名[(平均年齢69.4±12.3歳(mean±SD)  糖尿病歴10年以上(21名)6~9年(5名)2~5年(1名)1年未満(2名) インスリン歴10年以上(10名)6~9年(5名)2~5年(6名)1年未満(8名)]を対象とした。調査期間は平成26年9月~平成27年6月である。

 

調査結果より、インスリン再指導の初回時の評価において、手技や理解が不良であった項目の上位は、「注入ボタンを押したまま抜く」・「注入ボタンを最後まで押し、注入後10秒待つ」・「ゴム栓の消毒」であった図2インスリン注入後10秒待つことのできない患者も多く、全量注入ができていない可能性が示唆される。「単位の設定」や「皮膚消毒」は全体的によくできている項目であった。しかし患者ごとにできていない項目は様々であり、それぞれの患者に合わせた適切な介入が必要であると思われる。

インスリン再指導の初回時に合格となった患者の割合は35%であり、65%の患者がなんらかの手技や理解に問題があることが分かった。インスリン再指導2回目の時点で全体の76%の患者が合格となり手技や理解の改善がみられた図3このことより、定期的な再指導は1回の介入でも患者の手技や理解を改善できると考えられる。

また、再指導前後での平均HbA1cが8.23から7.96に低下していた。この結果については再指導前後での処方薬の変更もあり、条件が一定でないため、再指導によるものとは断定できない。しかし、再指導が療養行動によい影響を与えた要因の1つになったのではないかと考えている。また、医師に再指導対象患者についての指導内容等の報告を月に1回程度行うことで、診療にあたる医師の考えや治療方針なども理解・共有することができた。医師からは「インスリン再指導の指導記録は、外来診療時に診断の有用なデータとなる」という意見が聞かれた。他職種間で患者の情報共有を行うことで、今まで以上に糖尿病治療に対してチームで関わることができたと感じている。

今回の取り組みで得られた結果を活かして、今後も定期的な再指導を継続して行っていく予定である。薬剤師として患者のQOLが維持・向上できるような関わりを続けていきたいと思う。

 

  1. 朝倉俊成・他:長期インスリン自己注射実施患者を対象とした自己注射操作項目の遵守に関する実態調査.プラクティス,23:577〜580,2006.

 

 

 

 

 

 

 

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