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山梨県薬剤師会誌 No.3 2012.10 土橋和久

 

薬剤師による高齢喘息患者への吸入指導

 

~ 当院におけるシムビコートタービュヘイラー®の
吸入指導により明らかとなったデバイス操作のピットホール ~

 

土橋 和久

 

山梨厚生会 塩山市民病院 薬局

 

 

気管支喘息は気道の慢性炎症と、気道過敏性の亢進を基本病態とする慢性気道疾患である。喘息症状の軽減・消失とその維持、呼吸機能の正常化とその維持を図る長期管理薬において、最も強力であるのはステロイド薬であり、中でも吸入ステロイド薬は副作用の発現リスクが少なく、局所での確実な抗炎症作用を期待できることから、喘息予防・管理ガイドラインにおいても長期管理薬の第一選択薬となっている。また、吸入ステロイド薬の推奨は喘息死数の減少に大きく寄与している。一方で、近年吸入ステロイド薬のデバイスも多様化しており、喘息患者の不適切な吸入手技によるアドヒアランスの低下が問題視されている。
高齢化社会を迎え、高齢の喘息患者は非常に増加している。しかしその診断や治療には、合併症の存在による診断の難しさ、罹患年数の長さによる肺機能の低下、そして吸入手技等の患者指導に時間を要するといった、多くの問題を抱えている。実際現場に立つと、私の勤務する塩山市民病院(以下:当院)の薬局においても、やはり吸入指導を行う患者は高齢者が多数を占めており、指導時に薬剤師が大変苦労をしているといった場面をよく目にする。先日開催された日本病院薬剤師会関東ブロック学術大会にて演題を発表した際には、他施設の薬剤師からも同様の声が多く聞かれた。しかしながら、高齢の喘息患者への吸入指導が治療効果に与える影響は大きく、患者指導における薬剤師の役割はさらに重要となってくることが予想される。
当院は、一般病床180床(うち療養型病床60床)、16の外来診療科目を設置し、東山梨地域における医療の中核を担っている。また、外来処方箋の99.7%を院内薬局にて調剤・投薬しているという特徴がある。この院内処方中心である環境を利用し、当院では積極的に薬剤師が、外来通院している喘息患者に対して吸入指導を行っている。現在、採用されている全ての吸入薬において、初めて処方された患者に対し薬剤師が吸入指導に介入している。
特に、シムビコートタービュヘイラー®(以下:シムビコート)の吸入指導に関しては、当院薬局で独自に作成した「シムビコート吸入指導リスト」(図1)を使用し、薬剤師による患者への継続的な吸入指導を実践している。この背景として、長期間喘息を罹患している高齢喘息患者に使用するケースが増加し、その中で吸入手技が不適切であると思われる患者が度々見られていたことが挙げられる。まず医師はシムビコートでの治療を開始する患者の処方箋に、吸入指導を依頼するコメントを入力し、その後該当患者に対し薬剤師が投薬時に初回の吸入指導を行う。次回外来受診以降の薬局での吸入指導では、実際に薬剤の入った使用中の吸入器、及び練習用のデモ器を持参していただき、図1に示した指導リストの13のチェック項目に沿って吸入指導を行い、手技の理解が不十分な項目を用紙に記録する。患者が全ての手技を完全に習得するまで、この指導を外来受診時に毎回行っていく。全ての手技の習得が確認された時点で薬局での吸入指導が終了となる。指導を終えた患者の指導リストはカルテに添付し、吸入指導に関する情報を薬剤師から医師へフィードバックしている。この指導リストを用いることで、1人の患者に対し複数の薬剤師が指導を行った場合でも、薬剤師間の正確な情報の共有が可能となり、指導時の無駄な時間も短縮することができている。
今回、60歳以上の喘息患者のシムビコート吸入指導リストの過去の記録から、高齢の患者が吸入手技の習得に何回程度の指導を必要とするのかを調査した。また、患者が理解し難いデバイス操作を明らかにし、薬剤師による吸入指導を効率的、かつ有効的に実践すべく検討を行った。
吸入手技の完全な習得までに要した指導回数別の人数分布を見てみると、最も指導を必要とした患者は12回の指導を必要とし(1人)、初回指導のみで手技を完全に習得していた患者は、全体の25%にすぎなかった(図2)。また、60歳以上の全患者では平均4.5回の吸入指導が必要だった。年齢が70歳以上となれば、その回数は増加傾向となっていた(図3)。このことは、高齢喘息患者に対する継続した吸入指導の必要性を示している。すなわち、多くの施設に見られるように、初回投薬時の1回だけで吸入指導を終わらせてしまうことは、喘息症状のコントロール不良を招いてしまう、大きなリスクファクターとなり得ることが示唆される。初回投薬時から数ヶ月後に、吸入薬の再指導を行うことが呼吸機能改善に有効であるとの報告もあるが、再指導の間隔の開きは手技が不適切な状態が長期に渡ってしまうことを意味する。当院のように初回投薬時から継続して、患者が手技を習得するまで指導することは極めて有効な手段の1つだと考えられる。
図1に示した指導リストにおいて、どの手技のチェック項目で再指導を受けてしまった患者が多いのかを把握するため、再指導を受けてしまった患者の、のべ人数を項目別に示した(図4)。まず、再指導時に使用中の吸入器を確認すると、キャップを開けた時に、回転させる部位が右側で静止している患者が多かった。このような患者では、薬剤の残量と残りの使用回数を表示したカウンターに差が生じてしまう恐れがあるし、「1回2吸入」等の複数回吸入が正しく行われていたのかが疑問である。この項目で再指導を受けてしまった患者の約6割の患者が、ディスカス製剤からタービュヘイラー製剤にデバイスを変更していた。デバイスの変更により生じる、吸入後の操作の違いが混乱の原因になっていることも考えられる。したがって、デバイス変更時の吸入指導は、手技における相違点を説明する等の工夫が必要である。さらに、薬剤の吸入時に必要な吸気流速を得るために重要である、マウスピースを咥える前の息吐きができていない患者が多かったことも注目すべき点である。
次に、各項目において1度再指導を受けた患者が、その手技を習得するまでに要した指導回数を調査するため、1人当たりに要した平均の再指導回数を項目別に示した(図5)。ここで目立ったのが、新しい吸入器を使用する時に限り行う最初の操作を理解していただくのに多くの指導を要してしまった点である。この課題の対策として、薬剤の保存上の問題はないとの報告から、当院では調剤時に薬剤師が操作を行った後に投薬することとした。また、複数回吸入を行う際の操作を理解していただくのも、多くの指導回数を要した。この手技を理解できない場合、適切な用量の薬剤を吸入することができず、治療効果に大きな影響を及ぼしてしまうので特に注意して指導する必要がある。
薬局側の時間的理由や人員的理由により、もしくは患者側の理由により、当院のように継続した外来患者への吸入指導が困難な施設が多いことも事実である。また、シムビコートにおいては頓用吸入の適応が追加され、吸入指導の複雑さが増している。しかし今回の調査により、シムビコートを処方された患者、特に高齢の喘息患者がデバイス操作を行う上で、理解するのが困難な手技を明らかにすることができた。薬剤に添付されている指導箋を単調に説明するだけの吸入指導では不十分であり、今回示した注意すべき手技をポイントとして意識し、特に丁寧に指導していくだけでもアドヒアランス改善につながるのではないかと期待する。
高齢の喘息患者に対しての吸入指導は、どの現場の薬剤師も苦労していると思われるが、喘息治療において、薬剤師による指導は今後さらに必要とされてくることが考えられる。まだまだ課題も多いが、今回の調査を活かし、喘息患者がより良いコントロールを継続できるよう、薬剤師による吸入指導の質をさらに向上させていければと思う。

 

 

シムビコート吸入指導リスト

[図1]当院で作成した「シムビコート吸入指導リスト」と、その記入例

 

 

 

手技習得までの指導回数

[図2]手技習得までの指導回数と60歳以上の患者数

 

 

 

手技習得までの年齢別平均指導回数

[図3]手技習得までの年齢別平均指導回数

 

 

 

再指導を受けた患者数

[図4]各項目において再指導を受けた患者数

 

 

 

1人当たり平均再指導回数

[図5]1人当たりに要した平均再指導回数

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