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山梨県薬剤師会誌 №20 2021.03 秋山真二

 

病院薬剤師が仲介する双方向トレーシングレポートの運用に関する当院の取り組み

 

山梨厚生会 塩山市民病院 薬剤室 秋山真二

 

団塊の世代が75歳以上となる2025年以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれている。このため、厚生労働省は2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している¹⁾。地域包括ケアシステムでは、住まいを中心とした患者へのシームレスな関わりが求められている。その中で医療機関と保険薬局の薬剤師同士が連携をとり相互に情報共有しながら、薬物療法の安全性・有効性を担保する必要性がある。

当院は2017年4月より院外処方に移行した後、近隣の保険薬局との薬薬連携の必要性を感じ、2018年12月より病院薬剤師と保険薬局薬剤師の交流を目的とした薬薬連携の会を立ち上げた。現在までに3回の研修会を開催しており、その中で挙がった双方の意見やアンケート結果より情報共有ツールの必要性が示唆された。薬剤の情報共有ツールとしては、お薬手帳・薬情・トレーシングレポート・薬剤管理サマリー(施設間情報提供書)などがある。その中で当院ではあまり活用されていなかったトレーシングレポートを用いて薬薬連携を進めていくこととした。

トレーシングレポートとは保険薬局で緊急性・即時性は低いが患者の薬物治療に有用な情報を得た際に、処方医師へその情報を伝えるための情報共有ツールであり疑義照会とは異なる。

日本病院薬剤師会により作成された地域医療連携の手引き(Ver.1)には「薬剤部門が院内でのトレーシングレポートの活用を率先することで、院内の医療従事者や地域の薬剤師会との連携が円滑になる。併せて、発行側の薬局薬剤師とは、保険医療機関側の見解をまとめるなどして、トレーシングレポートの内容について協議をすることが望ましい²⁾」と記載されている。また、令和2年度の診療報酬改定において地域支援体制加算の算定要件に保険医療機関への服薬情報等の提出や地域の多職種連携会議への出席が新設された。そのことからもトレーシングレポートや医療連携の会が推奨され、地域医療に貢献するよう関わることが重要と考える。

上記を背景として、2020年10月にWEB開催となった第50回日本病院薬剤師会関東ブロック学術大会に発表した内容を報告する。

トレーシングレポートを活用するためのシステムを確立することを目的として、トレーシングレポートの様式や運用方法について第3回の薬薬連携の会にて協議をした。京都大学医学部付属病院ではトレーシングレポートを活用するための取り組みとして、病院薬剤師が介入するトレーシングレポートシステムを導入している³⁾。この取り組みや他施設での運用を参考にしながら当院のトレーシングレポートの様式や運用方法が決定された。

2020年4月よりトレーシングレポートの運用を開始し、当院のホームページ上にてトレーシングレポートの様式をダウンロードできるようにした。また、その様式に関しては、どのような目的のトレーシングレポートかを明確にするため分類の項目を設けている。

 

【トレーシングレポートの運用手順】 

①保険薬局が病院薬剤室にFAXする

②レポートの内容を病院薬剤師が確認する

③病院薬剤師が処方医に直接報告に行き、レポートの内容を伝える

④医師の見解やそこで得た情報を病院薬剤師記入欄に記載し保険薬局にFAXを返す

⑤トレーシングレポートをカルテに貼り、処方オーダリングシステムの処方医宛にレポートを参照するようメッセージを入力する

⑥次回外来診察時にメッセージを確認した処方医がカルテにあるレポートの内容を再度確認して、診察に活用する

 

トレーシングレポートを病院薬剤師が仲介するメリットは、確実に医師に情報が伝えられるとともに、薬薬連携が強化され、結果として患者に対して安全・質の高い医療が提供できることである。当院のトレーシングレポートの運用においては保険薬局に対して情報のフィードバックを全例行っており、双方向の情報提供となっている。また、トレーシングレポートの運用方法について病院薬剤師と保険薬局薬剤師が連携の会議の中でお互いに意見を出し方向性を決めたことで、薬薬連携がさらに強化されたと考える。取り組みとしては始まったばかりであるが、継続していくことが重要である。今後はトレーシングレポートの症例検討などを薬薬連携の会で行いながら、病院・保険薬局双方が協力して地域医療に貢献する関わりを続けていきたいと思う。

 

 

引用文献

1)厚生労働省ホームページ

2)地域医療連携の手引き(Ver.1)一般社団法人日本病院薬剤師会(令和2年4月2日)

3)調剤と情報 2019.8(Vol.25 No.11)P36-41

 

 

 

 

 

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